「空気まで写る」と比喩されたContax Carl Zeissレンズに一目惚れしたのは、ぼくがまだ写真をはじめて間もない、かれこれ25年程前の頃だ。
当時のカメラ雑誌なんかを見ていて、「これ写りが好みだな〜」と思って、撮影キャプション見ると、そこには「カールツァイス プラナーT*85mmF1.4」とか「カールツァイス ディスタゴンT*35mmF1.4」等の文字が踊っていた。
ドイツ製で価格が高いというのもあって、その時からZeissレンズは、フリーターで細々と趣味でカメラをやっている自分には手の届かない、憧れレンズになったのだった。
そして、「いつかはContaxを買うんだ」という気持ちで、カタログだけは集めていた。
35mmF1.4が191,000円、85mmF1.4が118,000円、当時流行の300mmF2.8が2,000,000円、1000mmF5.6に至っては5,170,000円という天文学的な数字が並んでいるカタログに、「うひゃ〜」とか「あへ〜」とかいちいち奇音を発しながら、よだれを垂らして見入っていたのだった。
イラストレーターとしてなんとか一人前になり、そこそこの収入を得られる様になった1994年。
そんな、よだれまみれのカタログを握りしめて、初めて買ったContaxカメラが、コンパクトカメラのTVSだった。
とりあえずコンパクトカメラで撮ってみて、Zeissが自分の好みに合う様だったら一眼レフを思い切って買おうという、お試しカメラだった(それでも170,000円もするカメラだったんだけどね)。
しかし、コンパクトでありながら、その色彩の素晴らしさや階調の豊かさ、隅々まできっちり写る解像力を見せつけられて、またたく間にZeissの虜になってしまい、翌年に一眼レフと、とりあえず新品の50mmF1.4と中古の85mmF1.4とレンズを無理しながらも購入。憧れのContax&Carl Zeissオーナーになる事ができた。
しかし、1995年当時、カメラ界の流れはオートフォーカス全盛期で、MFカメラは、ぼくの使っていたOLYMPUSのOMシステムとContaxくらいしかなくなってしまい、新製品はほとんど発表されない状態になっていた。
自分自身もContaxとは別に、「仕事で確実にピントを合わせる用」として、Canon一眼レフを導入し、次第にそれがメインになっていき、MFカメラは「趣味の作品撮り」という位置づけになってきた。
さらにデジタルカメラが実用的になって来るに連れて、ぼくも1999年にはE-10というカメラを購入。デジタルの便利さに毒されて、2002年からはデジタル一眼レフに切り替え、マニュアルのフィルムカメラを使う事は、まず、なくなってしまった。
こうしてせっかく憧れのContaxオーナーになったものの、レンズが揃う前にAFやデジタルに移行してしまい、Contax&Carl Zeissがメインシステムとして活躍できたのは、1995年から僅か2〜3年程度と、短命に終わってしまったのだった。
時は流れて2010年。
忘却の彼方に流されていたCarl Zeissレンズが、ここに来て再びマイブーム中v
昨年、ふとした事で手に入れたZeissT*28-85mmF3.3/4が、20年も昔のレンズなのにも拘らず感動的な描写で、Zeiss熱が再発。
デジタルカメラが2000万画素を超える様になって、国産メーカーのレンズの描写の限界が露呈してくる中、「空気まで写る」と言われたZeissオールドレンズの描写力は、皮肉にもデジタルによって証明された訳だ。
しかも、最近になって電子接点のついたマウントアダプターを入手し、これまで懸案だったピントの歩留まりもよくなる事で、実用性もアップ。さらに、滑らかなマニュアルのピントリングがムービーにもぴったりで、ムービー用レンズとしても重宝。
しかも、20年前は二桁万円が標準だったレンズ価格も、中古市場で半額〜8割安と、不況中のお財布にも優しいのも嬉しい所v
そんな訳で、よだれにまみれた20年前のカタログを、押し入れの底から引っ張り出しできて、中古レンズを検索しては、当時は高くて手の届かなかったレンズを、大人買い(笑)してしまいたくなる今日この頃なのだ。
一度は不運をかこったZeissだが、もう一花咲かせてもらおう。