先日の事だ。
「雑誌で『RAWを使え』って書いてるからRAWで撮ってるけど、現像が面倒臭いし大変なのに、仕上がりはふつうにJPEGで撮ったのと、どこが違うのかわかんない。RAWで撮る意義は何?」
と言う質問を友人から受けながら、かつて写真雑誌が「ポジフィルムで撮れ」と盛んに勧めていたのを思い出した。
写真上達のためにポジフィルムで撮影するのは、確かに意義がある事だ。
ポジフィルムはシャッターを切った瞬間に写真の出来が決定するから、自分の撮影の技量がダイレクトにわかる。フィルム粒子も細かいし保存性もいいので、作品として残すにはうってつけのフィルムだ。
しかし、失敗が許されないシーンで、一般的なアマチュアカメラマンがポジフィルムを使うのは、あまりにもリスキー。
特に女性ポートレート等では、ポジの硬調な描写よりネガプリントの柔らかい描写の方が、自分的には好ましい。
別に印刷原稿に使うとか、本格的に写真の修行をしたいとか作品を作りたいとかいう訳じゃないのなら、ポジフィルムにこだわる事はないんじゃないだろうかと、雑誌を読みながら思っていたものだ。
写真がデジタルになった今、雑誌では「RAWで撮れ」と勧めている。
RAW撮影は、一般的なJPEG撮影より有利な面が多々あるのは確かだ。ポジフィルムの様にダイレクトに撮影結果が反映されるJPEGに較べて、ネガの様に現像段階であれこれいじれるRAWの方が、撮影が簡単と言えなくもない。
しかし、プリント知識や色知識の乏しい一般アマチュアカメラマンに「RAWで撮れ」というのは、いきなりラボのプリント現像機を与えて「ほれ。これでプリントしてみろ」と言うのと同じくらい無謀な提案なのではないだろうか。色相色環相対色や色温度、デンシティフェリア・カラーフェリア等に及ぶ適確な知識がない限り、羅針盤もないままサンフランシスコを目指して出港するのと同じくらい、無謀な事だ。
とまあ、前置きはこのくらいにして、乱暴な結論を言えば、自分的にはRAWで撮ってもJPEGで撮っても、最終仕上がりには無視できる程度の僅かな違いしかないと思う。(この「僅かな違い」が大事な時もあるけどね)
RAWで撮ったからといってよりシャープに写る訳でもなく、適正露出を得られる訳でもない。RAWの魅力のひとつは16bit出力だが、一般的なPCやモニタ、プリンタの色再現力は8bitなので、ディスプレイやハガキ程度のプリントで見る限り16bitがすごく綺麗という訳でもないのだ。
ではRAWを使う意義は何もないかというと、勿論充分に使い勝手がある。
まず16bit出力。16bitデータなら、多少の色補正でもびくともしないのが嬉しい。
次に非圧縮。JPEGではエッジ等に多少の圧縮ノイズが出る事があるが、RAWデータなら基本的にそれがない。KG版程度のプリントやモニタに納まるくらいの画像サイズなら問題ないが、大伸ばしプリントの時は圧縮ノイズは大敵なのだ。
その他、RAWは後処理ができる設定がいろいろあるので、撮影段階で迷っている事を、家に帰ってPCに向いながらじっくり考えられるという利点もある。
また、RAWなら多少の露出ミスはフォローできるし、ホワイトバランスもPCで確認しながら自由に変更できる。タングステンカラー等もPhotoshopでそれっぽく見せるより、RAWの色温度設定で見せる方がより自然で綺麗だ。
ただ、それらの設定は撮影段階でできる事だし、迷ったままの撮影は、中途半端な絵柄になりかねない危険を伴う。
RAWを否定する訳ではないが、安易な先送り処理は写真の腕を錆びれさせる元だ。
「この部分は撮影段階で処理して、あの部分はレタッチかRAWでフォローしよう」と、写真の上がりを具体的にイメージしながら、撮影時にやる事とPC処理時にやる事を上手に振り分けるのが、大切なのではないだろうか。
ちなみにカメラマンまりりんは、一般的なポートレートはほとんどJPEGで撮影し、大伸ばし(B2以上)の予定のあるお仕事写真は、非圧縮16bitを利用するためにRAWで撮っている。
一度の撮影で数百枚単位を撮るポートレートでは、RAWで撮ると後の現像で莫大な時間と労力とディスク容量を費やしてしまうのがイヤというのもあるが、撮影時に自分のイメージを固めたいという理由で、フィルムを選ぶ様にカメラ設定を変えながら、発色を調整している訳だ。
勿論、最終段階でかなり色をいじってしまう事もあるけどね(笑)。
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